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NOVEL
「目覚めの時 第四章」
ー九労荘ー

山道を歩いている。朝から何も食べていないし飲んでもいない。もう1時間歩いたが山荘なんてどこにも見えてこない。だんだん山頂に近付いているのに何も見えてこない。 おじさんの言うことを鵜呑みにして山に入って来たが、はたして本当に九労荘などと言う物が存在しているのだろうか。しかし、今さら戻っていくわけにも行かないし、進むしかないのだ。 道ばたのやぶで物が動くのが見えた。なにか動物がいるのだろうか。凶暴な動物でなければ良いな、胸の中でつぶやきながら、どんどん道を進んでいくとなぜか、やぶの中の動物も(動物に違いない)ついて来ているようだ。 こうなると人の気持ちとして覗いてみたくなってくるよなぁ。なんだかどうしても見たくなって来たなぁ。熊なんか出て来たらどうしようかなぁ。なぁなぁなぁなぁ続いているが、そういう気分だから仕方がない。立ち止まってみるとやぶの動きも止まった。 う~ん、やっぱり、こういう時は必ずこういう展開になることに決まっているのだ。そしてその通りになっているなぁ、このあとは2つの展開があって、びくびくしながら探っていくと意外に可愛いうさぎだったりして、ほっと胸をなで下ろすなんて展開と、 探っていくとそこにはなにもない、なぁんだなどと言いながら振り返るとそこには身の丈3メートルの熊がガオーッなどどわめいている、主人公は絶体絶命、はたしてどうなるのであろうか。この続きは来週のこの時間に.......。 と思っている内に、また歩き出してしまった。実際には今の状況で覗いてみるなどという冒険をする程度胸はない。熊だったらそのうち出てくるだろうし、うさぎだったらそのうちいなくなるだろう。そうこうしていると気がついたら下り坂を歩いているではないか。 もう下山してるぞ。九労荘はどこにあるのか、やっぱりおじさんに騙されていて、そんな建物はどこにもなかったりして、などと思っていると目の前にドド~ンと建物が建っていた。

「なんでやねん、今迄なかったくせに。御都合主義もたいがいにしろよ。」

入り口に大きく『苦労荘』と書いてあるではないか。

「よしよし、最初からこんな感じで出てくればよいのだ。」

なんとなくうさん臭さを感じつつ門の前に立ったのであった。

「こんちわ~、まいど~、誰かいますか~。」

今迄の感じからすると誰も出てこないのであるが、今回は違う。

「なんだ~、入って来いよ。」

おーっ、反応良いではないか、こうでなくてはいかん。

「おじゃましますよ~、島めぐりコースで来たものなんですが。」
「よく来たなぁ、まぁ上がってお茶でも飲みな。」

おーっ、反応良いではないか、こうでなくてはいかん。

「どもどもっ、久しぶりの水分補給ですよ。」
「そうだろうな、ここへ来る奴はみんなそう言うよ。」

そらそうだ、みんな同じルートでわけもわからず来てるんだもんな。僕はお茶をすすりながら考えていた。そしてきっとヤマちゃんであろう人を眺めていた。

「どうやったら食べ物を手に入れられるんだい?」

ここにいる最大の疑問を投げかけてみるとヤマちゃん(仮)はこう言った。

「それは違うんだよ、君はもう苦労荘に入っちゃったんだから。」
「それってどういうこと、ぜんぜんわからない。」
「なにもしなくていいんだよ、三日後に迎えが来るから。」

三日後ってなんだ、どういうわけだ。とりあえず飯は食えるみたいだけど。

「今日はもうおそいから晩御飯食べて風呂入って寝ろよ。」

ヤマちゃん(仮)はそう言って夕食の準備をしてくれた。
ハマチ定食である。
意外と言えば意外、やっぱりと思えばやっぱり、そんなことだろうと思った。しかし、うまい。やっぱ定食はハマチに限るな。風呂もおおきな露天風呂なのだ。

「三日後ってなんだろうなぁ、おいちゃんが迎えに来てくれるのだろうか。」

そして、疲れてしまった僕は簡単に寝てしまうのだった。 朝、うとうとしながら起きるでもなくぼんやりしていると、奥から話声が聞こえてきた。

「.....あいつで大丈夫かなぁ、北山って言ったっけ。なんだかぼんやりしていてとてもじゃないけどすぐ死んじゃいそうだよ......。」

ぼんやり聞いていたけど北山と聞いてはっきり目がさめてしまった。北山は僕の名前である。死ぬとか言ってるし、いったいどうして僕の名前を知ってるんだ。ここで聞いていることがバレたら何をされるかわからんのでしばらく寝たふりをして考えることにした。 まず、なんで僕の名前を知っているのか。荷物も何も持っていないからわかるはずがないのだが、ひょっとして風呂に入っている時、免許証を見られたのか?それだったらありうる。とりあえずそういうことにしておこう。そもそもここにいるのはなぜか?考えていると頭痛がしてきそうだ。