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ESSAY
「寝室のくつわ虫 第一章」
ー寝室ー

今日も寝室にいる。
といってもここには機械がたくさん、ズーズーうなっている。僕の人生のほとんどはこれからここで過ごすのだろう。以前は、普通に生きて来た。今は、毎日モニタを見ながら嘘の世界を生きている。 今日は久しぶりに外へ出た。何しに出たかというと、自分の本来の居所、府中のアパートに、書類を取りにいったのだ。月に二度くらい行くのだ。 僕は今の生活の中に何を感じているかというと、嘘の世界なのに今の現実がむにゅにゅとあらわれてちゃんと存在している、ということ。テレビとビデオで全ての情報を得るということに慣れてしまった。外を見ると、東京タワーがビカビカと「ここは都会なのよね」と言っているようだ。 今日は日曜日なので道路が混雑していた。弁当型寿司屋からバッテラを購入。焼酎を飲みながらバッテラを食っているのだ。 そこにいつものように電話がかかっている。うるさい。電話は嫌いだ。僕にとって嬉しい電話なんてまずないということがわかっている。電話に出ると「せいちゃん、元気?」という声。予想通り通称あっちゃんの声。あっちゃんは最近東京に引っ越して来た大阪の友人だ。 「俺の友だちがさぁ、いなくなっちゃったんだ」
『またかよぅ』と思った。
「友だちって誰?」
「それがよっちゃんなんだ。」
イカじゃなくてネコのよっちゃんだ。
「さがしてくれよう。」
「わかったよ。いついなくなったの?」
「昨日、山田んとこに荷物とどけさせたら、
そのままどっかにいっちゃったんだ。」
「どこまで探したの?」
「25号線の4番ゲートまではわかったんだけど、」
「じゃあ、明日、また連絡してみてよ。」
「よろしく。」

ー25号線(1)ー

「ではっと、」
僕はいつも使ってるノートを取り出しながら、25号線に出てみることにした。今や世の中ネットワーク時代を通り越して、ネットライフ時代に突入している。 ノートといってもパソコンとかではなく、ネット入り口って感じで、昔、マウスパッドがあったところにあなぼこがあいていてそこに小指に取り付けてあるインターフェイスを突っ込むのだ。
「そろそろ、インターフェイス換えないとなぁ。」
僕のインターフェイスは500Mbpsなので遅いのだ。買い替えたいけど、金がなくてはねぇ。ここまで読んだあなたは、僕がコンピュータオタクの、よれよれ野郎だと思っているだろうが、そうはいかない。結構、いい男なのだ。女にもてるのだ。だが、おかげで金がないのだ。
『もてて金がないのはいい男じゃないってこともあるよね。』
小指のキャップをはずしておもむろに突っ込む。ぐちゃっという音とともに今まで見えていたモニタがぐわっと広がる。ここは12号線3番ゲートを入った6軒目。25号線は遠い。なにしろゲートは256番目まであるのだ。出かける時は電気自転車だ。ここで気をつけなければならないのは僕がカエルだってこと。 ネット生活に入る時に自分の形態を決めなければならないのだが、これが大体小学生の頃なので、まぁいいかげんに決めてしまうのだ。面白がって猿とか犬とかに決めて遊んでいるうちは良かったのだが、ある日突然、法律が改正になって
「今日より何人たりとも形態を変えることを禁ずる」
などとひそかに決定したのであった。これはあまりにもころころ形態を変えるので管理できなくなった政府が勝手にやったことで、また、おおっぴらにするとかけこみ変更が続出すると見たやつらが法律が効力を発効するまで内緒にしておいたのだ。いつの世も政府のやることは御都合主義でやりきれない。 僕などは人からカエルに変えたばかりでとても情けない状態なのよ。これが。大きさはみんな同じなんだけど手足のさきっぽがでかくて不自由。うまくブレーキとか握れない。よっこらしょって感じで出ていった。
「25号線となると、2時間くらいか。ついでに岩石島商店に寄ってTMG62V8でも見てこよう。」
角を曲がると今時めずらしいにこにこたばこ店だ。ここには80過ぎのばあちゃんがいて、いつもどこにも行かずにすわってる。ネット生活でじっとしてるのはほとんど意味のないことだと思うのだがこのばあちゃんどうやらインターフェイスのはずしかたが分からなくて、
「もうこうなったら死ぬまでここでたばこでも売っていよう。」
と開き直ってはや10年。
「こんちわ、ばあちゃん元気?」
声を掛けると、
「ああ元気だよ、カエルよりましさぁ。」
といつもの返事。ばあちゃんにとって僕がカエルであるということがとてもかわいそうなのです。
「いつもの2つちょうだい。」
「はいよ。でもカエルがたばこ吸って大丈夫かい?」
「大丈夫だよ。中身はおんなじなんだから。」
「今日はどこに行くんだい?」
「ちょっと25号線のあたりまで。」
「じゃあ20号線の山田さんちによってたまには顔出すように言っといてくれないかい?」
「わかった。20号線の山田さんね。」
それだけ言うと、たばこをポケットに突っ込んで走り出した。 それから1時間も走ると20号線だ。
「山田さんは確か120番ゲートのあたりだったよな。」
120番ゲートにさしかかった時、車をとめた。そこから歩いて奥に入っていくと山田さんは家の前に立って新聞を読んでいた。
「やぁ、カエルじゃないか。どうしたんだい。」
この人は僕を名前で呼んでくれない。
「12号線のね、タバコ屋のばあちゃんが、会いたいって言ってたよ。」
「そうかい。そういやぁ長いことあっちには行ってないなぁ。」
「25号線は今、どんな感じか知ってる?」
「そうだなぁ、カエルはあまり行かない方がいいとおもうけどなぁ。」
このおっさんは何を言い出すんだ。なんでカエルじゃいけないんだ。
「カエルとかはあんまりよくないなぁ。」
「なんで?」
「今ね、23号線より向こうはあんまり気候が良くないから、行くと戻って来れなくなるかもよ。」
「どれくらい良くないの?」
「先週もね、知ってるだろ。山椒魚、でっかいやつ。あいつが24号線に行ったきり帰ってこないんだ。もうひからびちゃったんじゃないかな。」
「ううむ。それは大変だな。大山は僕より乾きに強いからなぁ。」
大山は大山椒魚なのであった。両生類協会で知り合ったのだが、
「俺はなぁ、そのなぁ、3日くらいだったら平気なんだよなぁ、水なくても。」
などとほんとか嘘か分からないが、言っていたのを覚えてる。僕は一日でアウトである。まったくややこしいんだけど、体質はまったくカエルそのものなのです。これだけはどうしようもなくて一日一回は水に浸からないと、どうにも乾いてしょうがない。ネコはあったかいところ好きだからな。まったく。
「でも、行かないといけないんだよな。」
「3時間くらいでもどってくれば大丈夫だと思うけどなぁ。だめかなぁ。」
山田さんはいつもいいかげんである。
「僕があんまり戻ってこなかったら、タバコ屋のばあちゃんに知らせといてよ。」
「ああ、気をつけてなぁ。」
山田さんは眠たそうに言った。