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ESSAY
「寝室のくつわ虫 第八章」
ーシリアルナンバーー

あまりにも暗かったので目が慣れるまでしばらくじっとしていた。少しづつモニタの明かりが見えてくる。現実の自分に戻るのに少し時間がかかっている。やはり、新しいソケットで長時間のコネクトはしんどい。とりあえずHDBの缶をあけ、のどの乾きをうるおす。

「さて、シリアルシリアルっと」

キーボードをたたいてユーザ情報を引き出す。

「やっぱ未登録だわ、急いでたからね」

ユーザIDは登録されているのだが、ポリゴンモードの登録がまだであった。

「シリアル登録のダイアログはどこだっけなぁ~」

ソフトのバージョンが古いので何がどこにあるのか解らない。散々さがしたところで気がついた。バージョンが古すぎてポリゴン登録自体がないのである。

「おりょりょ、まいったなぁ、サーバに行って新しいバージョンを手に入れよ」

ダウンロードモードに入って検索するとすぐに探し出すことができた。ファイルを選択してダウンロードのボタンを押す。インストールが終わって再起動を促すダイアログが出てくる。

「さ・い・き・ど・おっと」

小さな音をたててNOGIが立ち上がっていく。ネットコネクトブラウザを立ち上げ、登録ソフトにアクセスする。ところが.....

「なんだこりゃ、ヘルデコ語じゃん、マルチリンガルモードはどこだ」

どこをさがしてもマルチリンガルモードはない。ヘデルコ語は世界でも稀な4バイトコードでできている、互換性がないのだ。しかし、英語モードくらいあってもよさそうなもんだけど、ないのですよ。そして僕はヘルデコ語がまったく読めない。

「う~ん、もっとグローバルな国に来れば良かった。でも犯罪者じゃしょうがないか」

記憶を頼りにそれらしいボタンを押して行き、入力をする。後から考えるとここで適当に入力をしたことが大変なことになるのだけれど、この時は全く思いもよらないので仕方がない。この時代、こんな入力は本来、たいした意味を持ってはいないのだから。
IDらしき物が表示される。

『::IDX002TB64ASB=PLG5442SI131::』

これをディスクに書き込む。

「よおっし、戻るとするか」

ソケットを差し込むと、ぐちゃっという音とともに今まで見えていたモニタがぐわっと広がる。 検問所に戻ってきた。スキャンの順番に再び並ぶとヤシダンはプログラムモジュールに入っていったらしく姿はなかった。再びスキャンである。『?』マーク付きのダイアログが出た。

『?:モジュール番号が不適格です:シリアルナンバーの再入力をして下さい』

「え~、なんでやねん。なんでちがうねん。」

思わず叫んだがどうやら登録を間違えたらしいCopy and Pasteで入力したから何か違うナンバーを入れたのだろう。

「端末がヘルデコ語なので分かりにくいのだが、英語か日本語の端末はどこかにないだろうか。」

『33号線 1番ゲートにヴァーチャルマシン:マルチリンガル』

「じゃあ、そこで再登録をしてもいいかな?」

『許可』

「すぐにもどってくるから。」

う~ん、こんな所で道草を食ってる場合じゃないんだがしかたがない。これが海外生活の不便な所なのだ。しかし、近くにヴァーチャルマシンがあるのならそう最初から言ってくれればなにもこんなくろうはしないのに。などとぶつぶつ考えているうちに1番ゲートである。 そこには豪華なヴァーチャルマシンが置いてあった。

「お~、これはこれは素晴らしいではないですか。」

ネットIDを入力して暫くするとLangudege selectダイアログが出てきた。
当然、日本語である。Japaneseを選択する。
パスワードを要求される。*************

『あなたのユーザIDはIDX002TB64ASBです』
『あなたの3DIDはPLG5442SI131です』

「そうだった、そうだった。ポリゴンIDは先頭がPLGで始まるんだった。私とした事がなんという間抜けなミスを犯したのだろう。」

独り言を言いながら再登録をした。それから2番ゲートに戻りスキャンの順番待ちだ。

『モジュール適合』

その文字を確認してから先に進む。そこにはヤシダンが待っていた。

「遅かったね、せいちゃん。」
「いやぁ、イージーミスの連発でエライ時間かかっちゃったよ。」

二人(二匹)はその日31号線2番ゲートのホテルに泊まった。ここは、は虫類のモジュールにコンバートした人が多いので水は使いたい放題であった。もともと犬だったヤシダンは今一水のかぶり方が解らないようで水浸しになっていたがなんとか使いこなしながら、

「せいちゃん、いよいよ明日だね。調子はどうだい。」
「作業自体は別にいつもやってる事だからなんてことないよ。」
「だって不正行為でしょう。」
「違うよ、あそこに取り付けるのは普通の事でひょっとしたらもうついているかもしれないよ。」
「ただ、少し書き換えるだけだからね。気が付いたときには僕らは全然違う所にいるから検問に会っても大丈夫だし、システムが立ち上がったのを確認してLOG OUTすればあとは、あっちゃんにまかせればOKだし、そのあと僕らには何もできないんだよ。」
「なるほどねぇ。」

明日に備えてとかげとカエルは寝るのであった。