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ESSAY
「寝室のくつわ虫 第二章」
ー25号線(2)ー

23号線にさしかかった時、これはただごとではないぞ、と思いはじめた。なにしろ日ざしが痛いのである。サングラスをかけているというのに目も痛いのである。去年来た時にはこんなことはなかった。 暑いといっても、じわじわっという感じで、痛くはなかった。背中から水分が蒸発しているのが分かる。25号線についたらまず、ホテルを予約しとかないと大変なことになりそうだ。と思いながら走っているとごにゃという感じで何かにぶつかった。 黒い固まりがそこにあった。よくみるとそれはなんと大山であった。正確に言うと大山だった物がそこに転がっていた。ネット内では死に関してあまり重要なことと考えてはいないが、それでもそこに以前、話をかわした人物がひからびて転がっているというのはあまり気分の良い物ではない。 大山は少し薄くなっておりデータとしてかろうじてそこに留まっているという感じだった。あと一週間もすれば、フラグメ処理で消えてしまうだろう。 こうなると次の登録まで3ヶ月かかってしまう。それも初期値からである。今まで蓄積してきたデータはなくなって五年間は監視サーバによる監視下に入らなくてはいけない。

「さよなら、大山。戻ってきたらメールくれよな。でも、アドレスもわかんなくなってるから、無理か。」

大山がいたってことはここは24号線だから25号線までもう少しだ。さらに進んでいくと25号線の看板が見えて来た。 看板の下の掲示板には、/強熱中冷却ファン工事中/の文字が動いていた。なんと25号線は冷却ファンが止まっているのだ。 えらいことだ。それでなくても25号線は旧式の高速チップを使っているからネットでの発熱量、堂々第一位なのにこの暑さではひょっとして4機とも止まっているかもしれない。 4番ゲートに入っていくと、目の前がゆらゆら揺れて来た。グラフィックチップが熱で誤動作しているようだ。それでも構わず進んでいく。すると、目の前になんだか見たこともないやつがあらわれた。

「やあ、カエルなのにこんなところに来て大丈夫かい。」

なんだぁと思いつつも、

「だめみたい。早く水を確保しないと。とほほ。」
「早くした方がいいよ。まだまだ暑くなるからね。」
「どうなってるの、ここは。」
「冷却ファンがだめになったからね。もうじきCPUがいかれちゃうんじゃないかな。」
「いまじゃここは、死にたいやつが集まってくるところさ。」
「あんたも、そうなのか?。」
「ちがうよ。俺は今からずらかるところでね。じゃあな。」
「じゃあな。」
『よっちゃんは死にに来たのか?』
とりあえず、ホテルを探そう。
「ホテルはたしか、10番ゲートにあったよな。」

10番ゲートに向かうと、ぎらぎら看板のスクラッチホテルの文字が見えて来た。入り口を入るとまっすぐフロントに向かっていく。

「今日、水の出る部屋空いてるかなぁ。」
「キョウワ キリノデル ヘヤシカ アリマセン」
「それでいい。そこお願い。」
「アリガトウゴザイマス。オヘヤワ 22092ゴウシツデス」

手続きを済ませ、部屋にあがっていく。霧の部屋は、冷たいサウナみたいなもんで、とてもきもちいいのでこの部屋で十分である。部屋に入ると早速CRS125に入って水分を補給する。

「げろげろっ。」

思わず声がカエルに戻ってしまった。
見た目がカエルなんだからこの方が自然なんだろうけど。水分補給が済んだところで早速、よっちゃんを捜しにいこう。 今の僕のアドレスは1ヶ月240時間、無制限の接続は基本的に禁止された。ネットシックにかかる人が予想以上に増えたからだ。僕の今月の残り時間は60時間。気をつけないとあっという間に終わってしまう。 今日はせいぜいあと、10時間くらいで抜け出さないと大変だ。外に出ると暑さはさらに増しているように思えた。4番ゲートに戻ってみると、目の前が歪みはじめていた。所々が256モードになっており、そこにはまらないように進んでいく。 少し歩いたところで、足に激痛が走った。自転車で出てくれば良かったと今になって思う。足下を見てみると、右足が256モードになっていた。

「しまった。」

一度256モードに入ってしまったら自分でプログラムを書き直さなくてはいけない。これは大変だ。後は闇プログラムを捜すしかない。
「時間がないから闇プログラム買うしかないか。」
まぁ、このことは帰ってから考えればいいと思っていたのだけど、このことがあとでつまらない問題になってくるのだからばかにできない。とりあえず、近くにあった雑貨屋に入ってサポートバーを買うことにした。
「サポートバーあるかなぁ。」
店員はあたりまえのように返事をした。
「カエル用はないよ。」
しかし、彼が僕の足をみながらニヤッと笑ったのを見のがさなかった。
「8が32にならないかなぁ。足だけでいいんだけど。」
黙ってカードを差し出したら彼は受け取った。
「二階に上がって待っててくれないかな。」

「サンキュー。」

この店は闇プログラムを扱っていたのだ。 二階に上がって驚いたのはそこは何もない部屋だった。ただ、何もないだけで512ビットの部屋だった。この部屋は明らかに個人のプログラムだった。ただ何もない部屋、あるのはドアが一枚あるだけの強いて言えば明るさがあるだけの空間だった。

「こんな部屋、個人で持ってるやつがいるんだなぁ。」

実際、この部屋を用意するには最低でも2年くらいはかかったはずだ。

「大丈夫かなぁ、こんなことするやつ危ないなぁ。」

ぶつぶつ言っているうちにドアが開いた。

「やぁ、久しぶりだねぇ。」

なんと、よっちゃんであった。

「よっちゃん、何してるの。捜してたんだよ。」

三毛猫のよっちゃんは楽しそうに笑いながら、

「こんなところで会うなんて思わなかったなぁ。」
「足、どうしたの。さてはゲートの横のバグたまりを踏んづけたろう。」
相変わらず、楽しそうに笑っていた。

「すぐに直してあげるよ、友達だからただでいいよ。」

そう言って僕にカードを返してくれた。
よっちゃんはプログラムを用意しながら僕の足のデータをリコンパイルする作業を始めていた。あっという間に足があったところに数字の0と1が浮遊しはじめて足がなくなっていく。 あまり気持ちのよい物ではないがこうしないと直らないのだから仕方がない。そこにプログラムフィルターを通すと数字の配置がどんどん変わっていく。

「あとは、もう一回コンパイルすれば大丈夫っと。」

あまりにもあざやかな作業でもうすでに僕の足は元通りになっていた。

「あっちゃんが心配してたよ。なんでいなくなっちゃったの。」

「君はあっちゃんがどういう人間か知らないんだ。」

ん?どういうことだ。何がいいたいんだろう。なんだかわからないまま僕はよっちゃんの話を聞き続けた。

「あっちゃんはね。大阪でデジタルマップマーケットに深く入り込んで情報を操作する仕事をしてたんだ。そこでマッピングの解析プログラムの中にあるバグがいることを発見したんだ。 でもそのことをかくして自分でもっと強いバグにするために仕事をやめて東京に出てきたんだ。今頃はもうどっかのマップカンパニーにアクセスしてバグボンブを仕掛けてる頃だと思うよ。」

彼はここまで言うとまた楽しそうに笑った。

「だからね。僕とせいちゃんを25号線に避難させたんだよ。ここだけは安全だからね。」
「ここだけってどういうこと。」
「ここは今、とても不安定な場所なので検索エンジンが使えなくなってるんだ。だからエージェントの検索に引っ掛からないわけ。」
「なんで僕がエージェントに検索されなきゃいけないの?」
「君が普段やってる仕事は何?マップエンジンプログラムでしょ。」
「うん。そうだけどこの仕事してるやつなんていくらでもいるよ。」
「で、影で隠れてプロテクトエンジン作ってるでしょ。」
げげっ。なんで知ってるんだ。このことは誰にも内緒でやってることなのに。マップエンジンプログラマはプロテクトエンジンの技術に触れてはいけないのだ。また、マップエンジンの開発とプロテクトエンジンの開発はまったく違うので両方をできるなんてことはほぼあり得ないのだ。 ぼくはごまかすことにした。

「なにそれ。知らないよそんなこと。」
「それならそれでいいけど、今度事件が起こったら、必ずサーチ対象に入るよ。」

相変わらず嬉しそうに笑っている。